第4回 マーケティングとバリューチェーン(価値連鎖)(1)
 製薬会社の中にマーケティングという部署がなくても、企業組織の中のさまざまな部署でマーケティングが実践されています。当然MRもです。そのことについては前回少しふれました。今回は、他の部門に広げてマーケティング活動を考えてみましょう。
 ここでマーケティングの定義をもう一度みてみましょう。「マーケティングとは、価値を創造し、提供し、他の人々と交換することを通じて、個人やグループが必要とし欲求するものを獲得する社会的、経営的過程である。」この定義の最初の部分に「価値を創造し」という言葉でてきます。今まで学んだことから解釈すると、「価値を創造する」とは、「企業の持続的な成長のために、顧客ニーズに応じて顧客(消費者)に価値のあるものを生み出すこと」となりましょう。
 では、顧客から見た場合の価値創造活動とは何を意味するのでしょうか。製薬会社内の各部門ごとに例をあげてみます。最初は研究所です。研究所では未だに治療法がない疾患、あるいは薬物治療の負担が大きい疾患などに焦点をあて、薬物の候補物質について研究します。つまり新規化合物の探索です。当然のことですが、顧客(医療現場や患者)は、既に一般化した化合物の改良ではなく、新規化合物の発見を研究所に強く期待するはずです。開発部門では、新規化合物を医薬品にするため、人体への投与方法が検討されます。顧客は、最小のリスクで最大の効果をあげることができる投与方法を知りたいはずです。
 工場では安定供給と不良品低減のための製造法が検討されたり、また、投与負担を軽減させるための剤形なども検討されているでしょう。本社の学術部では、医薬品の特徴を正しくかつ効果的に医療現場に伝えるように工夫します。パンフレット、ビデオなどを使用して、様々視点から情報が整理されているはずです。見ただけでは性能を理解することができない医薬品にとって、適切な情報の有無が医薬品の効果に大きく影響を与えることは間違いありません。営業本部には、MRが医療現場の実状に合わせ、情報を提供し、適切かつ効果的な使用法を提案していると思います。
 以上に述べたことは日常的に行われている業務です。それをもう一度顧客の視点で見直すと、何が顧客への価値創造活動となるかが明確になってくると思います。
 さて、上記の例からわかるとおり、一つの医薬品が最終的に消費されるまでの過程で、各部門が何らかの価値を生み出していることが理解できると思います。それは一部門に限定されるどころか、企業組織全体で価値を作り上げていることになります。マーケティングでは、まず顧客ニーズに応じて「価値を生み出す」ことが活動の第一歩言えます。
 なお、研究という経営機能の上流部門から価値を積み上げていき、営業という下流部門までに価値を上乗せしていくことを価値連鎖と呼びます。ビジネス用語としては、英語のバリューチェーンが一般的です。
 医薬品産業のみならず、価値を企業組織内でチェーン状につなげるという考えは一般的に支持されています。それに対して、種々のステークホルダーを含めた利害関係者との関係性から製品の価値を形成するという考えもあります。これをバリューフィールドと定義します。他の業界とは異なり、医薬品産業には特徴的なステークホルダーが多く存在します。たとえば、MR、患者、患者家族(患者団体)、医師、薬剤師、医療機関、メディア、保険組合などです。彼らとの関係性構築が、一つの医薬品の価値、あるいは会社全体の価値に大きな影響を与えることは間違いありません。私の考えとしては、医薬品産業はバリューチェーンではなくバリューフィールドにもっと注目してマーケティング活動を行う必要があると考えています。
 いずれにせよ、マーケティングは様々な部署や部門が巻き込まれならが実践されていきます。マーケティングは企業における価値創造プロセスに大きく関与していて、組織を貫く大きな柱、さらには、企業経営そのものといっても言いすぎではないと思います。

産能短期大学専任講師 内藤英俊
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