 |
前回はマーケティングにおける「価値」の意味について考えてみました。今回は、医薬品という商品における「価値」について考えて見ましょう。
医薬品の価値、つまり、なぜ、医薬品は必要とされるのでしょうか。そして、医薬品の提供を通して、製薬会社は顧客あるいは社会に対して、どのような価値を提供しているのでしょうか。
医薬品は病気を治療するために使用されます。必ずしも完治するわけではありませんが、状態を改善したり、疾病による日常生活の障害が軽減されたりします。このことから、医薬品は社会の健康状態の向上に貢献しているといえましょう。医薬品がなければ、病気の人も増え、それだけ社会の活力も失われます。医薬品は、「個人や社会の健康維持と増進」という価値を提供していると考えることができます。
最近は、生活習慣病薬と呼ばれる薬が注目されています。「生活習慣病」の定義はやや不明確なところがありますが、その領域の薬がこれから多く出てくると考えられています。老化現象として考えられていた男性のハゲを治療する薬などがあります。この分野の薬はまだこれから伸びる分野です。このような薬が増えてくると、医薬品は「個人や社会の健康維持と増進」という価値よりも、「自分の美しさの維持と向上」という価値になることでしょう。
ただし、生活習慣病薬はこれから伸びる分野としては期待されていますが、市場では従来からある薬がほとんどです。したがって、ここでは「医薬品の価値」を従来からある医薬品を念頭に説明したいと思います。
それではもう少し深く考えてみます。医薬品は治療の手段として使用されます。そして、一口に医薬品といっても、承認されている医療用医薬品は一万を超え、それぞれの医薬品が治療において果たす役割の大きさや意味は大きく異なります。感染症であれば医薬品次第です。しかし、多くの場合そうではなく、他の治療法と併用される場合が多いでしょう。患者によって薬をかえたり、併用される治療法でも薬をかえます。同じ患者でも、治療の進み具合をみながら、薬をかえたりします。つまり、治療行為は複雑なシステムで、薬が果たす役割はそのシステムの一部と言えます。しかし、全体の中の一部とは言え、薬がなければ治療行為というシステムも機能しない、ということも言えます。
このように考えると医薬品はドリルのように、簡単に代替品が見つかりそうもありません。代替品は薬以外のモノとは考え難いですし、薬であればどれでも良いというわけではなく、効能効果、副作用、剤形などをしっかりと吟味した上で選択されなければなりません。治療という複雑なシステムの中で期待される役割が厳密に規定されているので、そう簡単に代わりが見つからないのです。
また、エスキモー用の冷蔵庫のように、営業マンがユニークな価値を生み出し、提供するようなことはありえません。医薬品の紹介にあたっては、たとえ効果があったとしても、適応症になっていなければ抗生物質を癌治療薬にはできません。マーケティングは頭を使うのが仕事です。とても賢いMRがユニークな医薬品の使い方を生み出したとしても、それを顧客に勝手に提案することは許されないのです。
さて、医薬品の価値を考えてみると、MRにとっての価値創造に大きな制限があると感じられたでしょう。しかし、それはあくまでもドリルや冷蔵庫との比較の上です。皆さんが目にする一般的な商品と比較すると医薬品は確かに価値創造と提供には限界があります。
それでもMR活動には、まだまだ頭をつかう仕事、つまりマーケティングがたくさん残されています。そのことについてはすこしづつ明らかにしていきたいと思います。
産能短期大学専任講師 内藤英俊
|
|
 |