第10回 顧客参加の価値創造(2)
 前回は、企業と顧客との親密な関係構築の中で価値が創造されていくことを見てみました。企業だけでは顧客が求める本当の価値を生み出すことはできません。顧客自身が何らか形で価値創造のプロセスに参加する必要があります。
 このような考え方は医薬品産業にも当てはまります。医薬品の顧客は当然患者ですが、治療の手段として医薬品が処方されるならば、医療現場に携わる専門スタッフも医薬品の顧客です。彼らはどのように価値創造に参加しているのでしょうか。
 最もわかりやすい例は治験です。最近まで、患者は医師の説明を受けたしても、自分が治験に参加している意識はほとんどなかったと思います。ですから、自分が製薬会社に何らかの貢献しているという意識をもつどころが、逆に自分が利用されていると感じた方も多かったでしょう。
 このような状況は治験広告の規制緩和により大きくかわりました。最近、新聞やインターネット、吊革広告などで治験への参加を直接患者に訴える広告が目につくようになりました。これらの広告を見て、自分の意志で治験に参加できる時代になったのです。これはとても良いことです。価値の高い商品を生み出すためには顧客の参加が欠かせません。それも、企業と顧客の緊密な関係が必要なのです。患者がだまされたと思いながら治験に参加するのと、薬になるかどうかは自分次第だ、という意識をもちながら治験に参加するのとでは、データの質に大きなちがいが生まれて当然と言えます。広告によって自分から治験参加の申込みをした患者は医薬品開発に今まで以上に大きな貢献をしてくれることでしょう。
 一方、医療スタッフの代表である医師も製薬企業にとっては顧客です。医師も医薬品開発の過程で多大なアドバイスを与えてくれます。容量や服用法などの決定だけではなく、治療の中で薬ををどのように使えば良いのか、治療の実態に即した使用方法を明確にしてくれます。同じ適用であっても薬は単純に代替できない部分があります。薬をかえただけで、治療全体を変えなければならないときもあります。したがって、治療における医薬品の使用方法という情報は医薬品に大きな価値を与えることになります。やはり、医師の治験への参画の程度が付加される価値に大きな影響を与えることになります。
 以上のように、医薬品業界においても顧客の参加があり、また、顧客の参加が価値創造に大きな影響を与えることは間違いがありません。しかし、他の業界に見られらない特徴もあります。それは、長期にわたる開発期間が背景にあります。一般に新薬が誕生するまでに15年が必要であるといわれています。徹底したITの活用により効率的な新薬の研究開発が期待できる遺伝子治療薬においても、投資段階から数えて13年もの期間が必要と言われています。これは、他の商品と比較すると、とても長いと言わざるを得ません。製品寿命が長い車の場合でも、開発期間は1年弱です。(10年前は3年ほどでした)他の消費財の開発期間については触れませんが、車よりずっと短いですし、昨今のITの進化により、その期間は大幅に短縮されていることが容易に想像できると思います。このような違いが生まれる理由として、製薬業界ではGLP、GCPなど研究開発の規制が厳しいという点もありますが、医薬品は一般的な消費財のように単に色やデザインを変えるだけでは、顧客の満足を満たせるような商品にならないということが言えます。つまり、新しく生み出される医薬品にはしっかりとした新技術の開発(イノベーション)が求められるのです。
 医薬品独特の長期間の研究開発は顧客との関係作りに大きな影響を及ぼします。この点については次回解説しましょう。

産能短期大学専任講師 内藤英俊
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