第11回 顧客参加の価値創造(3)
 本来、企業と顧客は親密な関係を理想とすべきですが、医薬品の研究開発は長期間を要するため、他の業界とは異なる顧客関係が生まれます。具体的に言うと、製薬会社は顧客の声にもとづいて研究開発の計画を立てることはできない、という点です。今まで顧客の参加が重要だと説いておきながら、顧客の声は聞けない、というのはやや矛盾しているように思えるでしょう。これは次のような意味です。自分だけのオリジナルパソコンなら2週間で作ってもらえますが、医薬品は、そうは行きません。剤形の変更といっても、臨床試験が必要となると、3年です。この程度ならまだ待てるかもしれませんが、15年もかかる新薬の開発に患者の声を反映させるというのは現実的ではありません。15年後には社会の価値観が変化します。同様に、そのとき必要される治療法や治療薬も変化します。医師であってもそのとき必要となる治療薬をイメージできないでしょう。ましてや現時点でまだ患者ではなく、15年後に患者になる方(潜在患者)にとっては無理な話です。例えば今の自分が40歳で健康であっても、65歳になるとパーキンソン病が発症し、パーキンソン病による手足の震えや抑うつ症状に悩まされるかもしれない、と人は考えることができないと思います。このようなことから、医薬品の研究開発は、患者との親密な関係構築を背景に進められるものではない、ということがわかります。製薬会社は、疾患に関する科学的なデータ、つまり疫学や未来の治療技術などを予想しながら、15年後を目指して新薬の研究開発に着手することになるのです。
 実は医薬品に限らず、イノベーションが期待される商品は必ずしも顧客ニーズに立脚したものではなりません。たとえば、携帯電話や宅配便なども、顧客は最初からこのような商品を必要とはしなかったのです。理由は簡単です。あまりにも革新的なため、そのような商品を自分の生活の中でイメージできないのです。10年前のアンケートで携帯電話がほしいと答えた人はほとんでいませんでした。宅配便も同様です。郵便局があるのに、なぜ宅配便が必要なのか、最初は理解できなかったことでしょう。多くの消費者は、革新的な商品である携帯電話も宅配便も使ってはじめて、それが必要だということが理解できるのです。
 医薬品開発における顧客の参加のあり方に話しを戻します。医薬品の研究開発にはイノベーションが期待されているので、本来、患者である顧客の声を直接反映させるのは難しいと思います。それに輪を掛け、15年という研究開発期間です。早いサイクルで新商品を消費することに慣れている現代の消費者なら1ヶ月ですら待てないでしょう。それでも、顧客の参加は不可欠です。前回説明したように、治験の質は患者の参加意識に左右されます。
 それではMR活動における顧客の参加はどのように考えたら良いでしょうか。MRは医師をはじめとした医療従事者を顧客とします。ポイントは、MRから提供される医療情報の質にとって重要なのは何か、です。本社のデータベースでしょうか。違います。やはり、顧客である医療従事者の参加程度です。MRから提供されるのは医薬・医療情報サービスです。このサービスの価値を上げるには、MRからの情報や問いかけに対して、医療従事者がどれだけ真剣に答え、そして、MRとのやりとりの中で自分のニーズをどれだけ明確にできるかが重要なのです。
 このような考え方を、現在の医師とMRの関係にあてはめるとどうなりますか。医師に絶対服従の立場で接するMRならば、医薬・医療情報サービスの質を上げるのは無理でしょう。なぜなら、医師に従い、一方的に医師の話を聞くだけのMRならば、医師が必要とする情報を明確化することを支援できないからです。医薬・医療情報は既にインターネット上で公開されているので、医師はこのようなMRのかわりにインターネットを選ぶかもしれません。MRは本来、自分を介することで提供される情報価値を上げ、医療従事者に対する医薬・医療情報サービスの質を向上させることが望まれているはずです。
 製薬産業に限らず、顧客参加という考え方を進めていくと、企業は顧客をパートナーとして見なす必要がでてきます。お互いに遠慮せず、なんでも言い合える関係でなければならないのです。

産能短期大学専任講師 内藤英俊
Feed Back(この記事への皆様の評価をお聞かせください)
≪1≫
ほとんど読んだ
一部だけ読んだ
≪2≫
参考になった
参考にならなかった
※ご意見・ご感想など、ございましたらお書きください。