一. 診療契約の成立
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われわれ窓口担当者は、初診の際患者さんより被保険者証の提示を受け、診察申込み書に氏名等を記入していただいて順番で診察室に案内しているが、この何気ない窓口業務が実は診療契約を交わしているということに気づいている人は少ないと思う。契約を交わすということ、売買契約や賃貸契約等のように契約書に双方サインし、捺印して契約内容の履行を実行することになるが、医療機関の窓口には診療についての「契約書」を置いてあるところはまずない。
しかし、日常行われている診療行為は民法上からみると医師と患者の診療契約の上にたって行われているといわれている。それではどの時点で診療契約が結ばれるのだろうか。患者が医療機関の窓口で症状を訴え“診てもらいたい”という申入れに対し、医師が“診ましょう”と承諾することによって契約が成立する。実際は、医療機関側の初診申込み書に記入をして提出し、それを医療機関が受理することによって契約が成立することになる。
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二. 診療契約成立による医師・患者双方の義務
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診療契約の成立によって、医師は「診察することの債務が生じ、患者は診療に対する報酬を支払うという債務が生じる。」ことになる。契約は双方の信義誠実の原則に則って履行されるので、お互いに信頼関係の確立と維持に努力し、双方病気の治療に全力で取り組まなければならない。診療契約は“準委任契約”と呼ばれている。これは委任契約に準ずるものとして委任の規定を準用している。委任契約は法律行為を伴うものをさすが、準委任とは法律行為の伴わない行為、たとえば物の管理等を依頼する場合などのようなものを意味する。
診療行為は患者が医師に対し投薬や処置・手術等の治療を行うことを委任することであるといえる。診療契約を結ぶことによって医師、患者双方に契約上の義務が生ずる。一般の契約とは異なり、契約書の作成も行わなければ治療期間も治療方法も明確にされていないが、民法上双方に義務が課せられていることをまず知ることである。
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三. 診療契約における医師の義務
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医師および患者双方に課せられた義務の内、まず医師の義務から説明することにする。
(1)インフォームド・コンセント
ここ数年前から言われ続けている言葉に「インフォームド・コンセント」というものがある。日本語に訳すと「事前の同意」ということになるが、これは医師と患者は対等の立場であり治療については開始前にはよく患者に説明し同意を得ることが必要であるということである。昔流の“診てやる”というやり方は現在の医療では通用するものではなく、とくに生命・身体に多大な影響を及ぼすと思われる治療・検査等については事前に患者の承諾を求めることである。
(2)医師は最善の方法をもって治療を行わなければならない
医師は自己のもつ知識、技術、経験をもって最善を尽くして診療にあたるべきということである。
(3)医師自ら診療を行わなければならない
原則として医師自ら診察、投薬等の治療行為を行わなければならない。これは一連の行為を同一医師が行うことで、一貫した治療が期待できること。また、他の医師まかせの治療では治療そのものが契約における信頼関係の基盤が崩壊することになりかねないからである。
(4)専門医への診療の委任
前項と矛盾するが、現代の医療は専門化、細分化、一人の医師がオールマイティーにすべての診療科に精通することは到底不可能であり、とくに眼科や皮膚科等の診察は専門医に診てもらったほうがよいといわれ、むしろ積極的に他医に紹介し患者の治療にとって最良の方法を講ずるべきである。
(5)診療についての患者への報告義務
医師は患者の容体や検査結果や手術結果について尋ねられてた場合には、必要な限り知らせる義務があるといえる。したがって、多忙を理由に報告を怠ることは義務を果たしていないことになる。主な医師に課せられる義務を述べてきたが、いずれの項目もごく当たり前のことといえる。
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四. 診療契約における患者の義務
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(1) 診療費の支払い
診療を受けた場合には、必ず診療費を支払わなければならないということである。この診療費の支払は成功報酬を意味するものではなく治療の結果如何を問わず支払うことになる。最近、医師の診察が気に入らないとか手術結果が思わしくないとかで支払い拒否をする患者がいるがこれはもっての他といえる。
(2)症状の告知
医師は治療を開始する前に問診等を行い事前に経緯、現状等の把握をした後に治療を始めるが、問診に際し患者が本当のことをありのまま素直に告知しない限り適切な治療方針がたてられなくなる。
(3)医師への従順
療養への専念・・・治療を行う上での必要な命令・指示・注意等に対して患者は従わなければならない。なぜなら医師は最善の努力を尽くし治療を行うのに、患者がその指示に従わないとすると治療効果も期待できないものとなる可能性がある。また、医師が最善の努力を行っても患者が治そうとする疾病に対しての自覚と認識がない限り治療効果が期待できないことになる。ゆえに患者の療養への専念が求められる。
(4)治療上の規則の遵守
医療機関には日々多くの患者が来院され診療を行っているが、そこには必然的に規則があり、その規則を守ることを義務づけられることになる。また、入院による療養生活では他人との共同生活をしいられることになり互いに迷惑をかけることなく快適に入院生活を過ごすにも規則を遵守することが必要となっている。
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五. 緊急事務管理−診療契約に基づかない診療行為
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診療行為は契約によって成立し行われていることを述べてきたが、すべての診療行為が契約を結ぶということができない場合がある。たとえば、重症で意識不明の場合とか精神病でまともな判断ができない場合等のようなときである。一刻を争い診療を開始しなければならない場合に診療契約の結ばれない診療行為を行うことを法律では「緊急事務管理」と呼んでいる。診療依頼がない「緊急事務管理」の場合においても、医師・患者双方に次のような義務を課している。
(1)医師の義務
a 依頼なき場合でも最善を尽くさなければならない・・・依頼がないからといって適当な診療行為を行っていいということはなく、契約を結んだ場合と同様に最善を尽くさねばならないことはいうまでもない。
b 診療行為の継続的な管理・・・いったん診療を開始したからには、途中で中止することなく最後まで治療を続行しなければならい。
c 診療についての患者への報告義務・・・依頼がないからといって報告する必要がないということはなく、契約の場合と同様に経過報告、検査手術等の結果報告を必要な限りにおいて行うことはいうまでもない。
(2)患者の義務
診療費の支払い・・・患者が依頼したわけでないから支払い拒否できるというものではなく診療費の支払いをしなければならない。たとえ結果が悪い場合でもである。
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